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玄関廻り夜景「じょうご谷造り」の屋根を現代の家に生かす当邸をもし上空から見たら、通常は目にすることがない家屋構造を見ることができる。ほぼ正方形の家屋の屋根部が「ロ」の字型になっており、その「ロ」の字の内側は空洞で中庭のグリーンが見えるはずだ。着想の基となった「じょうご谷造り」は、福岡と佐賀の県境を流れる筑後川流域に建つ農家に昔見られたという。もちろん屋根の内側は空洞でなく、断面図的に見ると屋根の中心部が凹状に窪んだものだ。台風や高潮の被害から屋根を守るためだとも云われているが、構造や施工の複雑さ、雨水処理の難しさなどから、なぜ当地にこのような建築様式が定着したのかは未だもって不明とされている。私がそのような特殊な屋根形状を採用したのには、もちろん合理的な理由があった。外に閉じ内に開くコートハウス様式では、文字通り“court”=中庭の存在が前提となる。当然当邸にも約10畳大の広い中庭があるが、「ロ」の字の真ん中が空いた屋根を戴く当邸の中庭は完全なオープンエアとなる。晴れた日に少々守りの姿勢を強めた。施主夫婦は共働きのうえ、近年周辺の人口が増えたこともあり、予期せぬ犯罪から家族を守りたいという強い要望があった。そこで玄関は家屋の中に隠れるような位置に配置。スタイリッシュな外観にマッチするよう、玄関ドアにはシンプルなデザインの「エスキューブ」を採用した。内部から玄関前の様子をうかがうのに「袖」が必要だと考えたが、あえて既製のものではなく造作によって玄関ドアの両側にしつらえた。職人のすすめにより、一般のすりガラスより透過性が高いフロストガラスに防犯フィルムを貼って防犯性を高めた。さらにセキュリティシステムも導入して万全を期した。オンリーワンの作品性という意識もあってコートハウス様式やじょうご谷造りなどを提案したが、結果として施主が求める暮らし方や防犯意識などにぴったりと合致し、デザインが機能と有機的に結びついた好例だと考える。(松尾強談)玄関部門銅賞松下邸新築工事は誰にも邪魔されることなく青い空と陽光の下で過ごすことができ、夜は星空を独占できる。もちろん雨天の日はそのまま雨が中庭に降り注ぎ芝を濡らす。でもそれでいいのだ。家族はみんなフィールドワークが好きなアウトドア派だ。多忙でなかなか遠方への外出ができないこともあり、この中庭でバーベキューはもちろん、テントを設営して夜を過ごすこともあるという。一方「ロ」の字に沿った部分は内に向かって傾斜する回型屋根。内部的には勾配のついた斜め天井となり、一番高い部分では3,770mmの天井高となる。そのため基本構造は平屋造りの家に、小屋裏収納ともなるロフトを設けることが可能になった。このロフトは施主の隠れ部屋として有効に使われているという。中庭やロフトを存分に活用している家族の様子を聞いて、この屋根形状を提案して良かったと感じる。既製品と造作の組合せでオンリーワンを実現構造的にも暮らし方としても、内部は思い切り開放的な空間とした当邸だが、外に対しては58The2ndTOSTEMArchitect&SupplyContest
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キッチンからリビング、ダイニング越しに和室を望む□施工情報所在地:福岡県福岡市施工:株式会社第一双葉敷地面積:352.11m2 延床面積:159.00m2構造:木造 地上1階使用商品:エスキューブスイングタイプ□松尾強プロフィール職歴1979年∼1995年アトリエ美山1996年松尾強一級建築士事務所 教職歴1988年長崎総合科学大学建築学科非常勤講師1996年町田インテリアコ−ディネ−タ−講師□主な作品中村家具福岡店、VEGA岩屋、HONESTY平尾、祖師堂、長丘の家 など多数住み手の嗜好で作風は変貌しても個性豊かで時代に流されない普遍性のあるものを生み出したい。選評シンプルな玄関ドアと両袖のFIXガラスが、建物の中央に配置されており、玄関を含めたシンメトリ性のある外観に仕上がっている。400400玄関ドアW890外壁通気@18FIX硝子外壁ガルバリウム鋼板エスキューブスイングタイプ内壁⃝12合板+⃝12PB+クロスアア施主の隠れスペース洗面廊下中庭3,18513,650玄関ホールポーチW-E立断面図玄関ドア廻り平面詳細図写真:ⓒH.OhkumaS=1/200S=1/3059
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