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ローマパンテオンルーブル美術館「ガラスのピラミッド」クリスタルパレス(1851年ロンドン万博)SHINNIKKEICURTAINWALLPROLOGUE 日本大学教授 斎藤公男「ファサードと構造」 かつて、「ファサード」(Facade)とは建築の正面、つまり建築の外観(立面)を意味していた。ファサード=外周=視覚的境界であり、屋根や床と同じ建築要素と考えられていた。 一方、今日のファサードは、ときに構造体(対垂直・水平力)であり、ときに内部空間の制御装置(対光・熱)としての役割を負わされる。従ってデザイン、構造、環境を総合的に考えられることが求められ、そこにファサード・エンジニアリングの必要性が生まれてくる。 近年のファサード・デザインの中心的なテーマのひとつは、何といっても「ガラスによる透明建築」の実現であろう。北米を中心とした“反射”から、欧州を中心とした“透過”の世界へ。外部の風景や光を室内にとりいれること。こうしたガラスファサードに対する新しい関心の動きは、「光」に対する人間の古来からの憧れに根ざしていると考えられる。 例えば、古代ローマのパンテオン。あたかも透明な被膜で覆われたかのような直径9mのオクルスは、巨大で暗い構造ドームを、劇的な光で満たし、4次元の空間へと変貌させる。 やがて生まれた透明な被膜は、近代建築が成立するずっと以前から多くの建築に用いられていく。ゴシック建築からクリスタルパレス、そして19世紀の大空間建築から20世紀中期の高層建築の時代へ。その頂点、1950年代に完成したガラスのカーテンウォールの事務所ビルは、ミースのイメージの一般化という路線上に築かれたものであるが、同時にそこから「場所性の喪失」が始まることになる。ガラスは、最も均質的な材料である。RCやスチール以上に地域性が表れにくい。 そうした停滞感を打ち破るひとつの事件が起きる。「ガラス」を普遍的な空間提供の使途の位置から、新しい空間創造の主役となる素材へと変身させたものは、厚板で高強度な大型ガラスの出現とハイブリッドなテンション構造の発想である。そして、新しい「時代の感性」を表現したのは2つのプロジェクトであった。 ひとつは、1989年にI・Mベイの設計によって完成したパリのルーブル美術館の「ガラスのピラミッド」。 高い透明性を得るため、ロールアウト法により、酸化鉄を0.01%まで減少し、青身を除去することに成功するとともに、ヨットの技術(ディテール)を利用した透明建築への憧れと技術∼ファサード・エンジニアリングに求められることは何か6
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テンション構造が採用された。 いまひとつは同じ年、パリのラ・ヴィレット公園内の科学産業博物館のガラスファサード。高強度ガラスに孔をあけた巧妙な点支持構法(DPG)であり、支持構造にはプレストレスト・ケーブル・トラスが適用された。特筆すべきことは、ガラスファサードの開発が、一人の構造エンジニアによって遂行されたことである。その名はP・ライス。ここに展開されたストラクチュアルグレージング・システムは、現代建築にハイテク表現の潮流を巻き起こすとともに、ファサード・エンジニアリングに対する重要性と可能性を世界に示したといえよう。 MJGやテンセグリック・トラス・システムの誕生も、新しいガラスファサードへの挑戦である。1995年の春、それまで普及していた「孔あけガラス構法」とはまったく異なるシステムが登場する。この独創的なアイデアもまた一人の構造デザイナー(J・シュライヒ)から生まれた。「孔なしガラス支持+ケーブルグリッド構法」である。その特徴は、第一にガラスの弱点である孔をあけない、第二にケーブルは直線として中間の束材なし、第三に1本ケーブルに正負の風荷重を負担させる。そして最大の特徴はジョイント(交点金物)にある。すなわち2枚の小さなプレートと1本のボルトが自重と風を支え、大きな層間変位を吸収する。製作・施工はきわめてシンプルになり、デザイン的にもエネルギー(技術)的にも最小化が図られる。外乱の異なる日本における開発後に初めて、“MinimumJointGlazing”(MJG)の命名が与えられた由縁である。新しいガラスファサードへの挑戦ラ・ヴィレット公園・科学産業博物館MJG支持金物DPG支持金物MJG+ケーブルグリッド概略図 7

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