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02すべりの研究◉東京工業大学で床のすべりを研究テーマに取り組まれてどれくらいになりますか?本校での床のすべりの研究は、ほとんどが私の恩師の小野英哲先生によるもので、その歴史は、1970年代前半、小野先生が先生の恩師の吉岡丹先生の助手をしていた時代に遡ります。当時は、すべり試験機の1つとして「振り子型」試験機がJISに規定されていました。ある時、吉岡先生の研究室に、振り子型試験機での測定依頼があり、これを受け、小野先生が各試験体のすべりを測定して報告されたそうです。通常はこれで終わりなのですが、小野先生は試しに各試験体の上で歩いたりダッシュしたりしてみたそうです。すると、自分の感じるすべりやすさ、すべりにくさの序列が試験機による測定結果とどうも合致しない。そこで、吉岡先生に「この試験機はおかしい」と進言したところ、「では君の感覚と合致する試験機を開発してみなさい」ということになって、研究が始まったそうです。そして、試行錯誤を繰り返した結果開発された試験機が、O-Y・PSM(Ono-YoshiokaPullSlipMeter)です。◉すべりの研究は、さまざまな床材の開発にかかせないものですが、その重要性とは、どういうものでしょう?床のすべりが日常の安全性確保のために重要であることは、今さら言うまでもありません。しかし、床にはすべり以外にも様々な性能が要求されるので、すべりのことだけを考えて床材を開発、選択することはナンセンスです。例えば、すべりにくさと汚れの付きにくさ、清掃のしやすさを兼ね備えた床材の開発などは、現在の技術でも非常に困難です。結局、使用者の要求に応じて性能ごとにどの程度の水準を確保するか設定し、それに見合った床材を開発、選択することになります。この、要求水準に見合った床材の合理的な開発、選択のために必要となるのが、妥当な性能評価方法の確立、整備です。すべりに関しても、実在する、あるいは今後開発される様々な床材のすべりやすさ、すべりにくさを定量的に把握し、どの程度の安全性を有するか評価できる方法を確立することが重要であり、そのための研究は、床材の開発、選択に欠かせないものといえます。◉O-Y・PSMの仕組みについて、簡単にお聞かせください。現在、すべりを測定できると謳っている試験機は、世界中に100種以上あると言われています。これらの中には、あたかも高校の物理で習う摩擦係数が測定できればよいといったイメージで、測定条件を十分に吟味しないまま安直に開発されたと思わざるを得ないものも、少なくありません。物理で習う“摩擦”と人間の動作時の“すべり”とは、全く異なるものです。すなわち、すべりには、床と足裏あるいは履物底との摩擦の他に、床の表面凹凸の足裏、履物底へのくい込みや、床の変形など、様々な要因が影響します。したがって、すべりを正しく測定するためには、足裏、履物底のかたさや大きさ、形状、および床に加わる荷重の大きさ、速さ、方向などを、人間の動作時と近似するよう適切に設定しなければなりません。O-Y・PSMは、この様なことを十分吟味して開発された試験機であり、測定されるすべり抵抗係数C.S.R(CoefficientofSlipResistance)は、人間が感じる床のすべりやすさ、すべりにくさの序列とよい対応を示すことが学術的に証明されています。このように、人間のすべり感覚と合致することが証明されている試験機は、世界中でO-Y・PSMのみです。◉O-Y・PSMの実験は、さまざまな場合を考慮しているんですね。すべりやすさ、すべりにくさからみた床の序列は、動作の種類や想定人間の感覚を反映したすべりの研究が安全・快適な居住環境をつくる日常生活のなかで、安全で快適な床材は、すべりすぎても、すべらなくてもいけない。最適なすべりの床はどういうものか、長きにわたって、すべりを研究テーマに取り組まれている東京工業大学の横山裕教授にお話をうかがいました。横よこやま山 裕ゆたか1961年生まれ。1988年東京工業大学大学院博士課程修了、現在東京工業大学教授。建築材料、構法を専門分野とし、居住者の安全性、快適性からみた建築部位の性能評価方法に関する研究をおもなテーマとしている。学生時代より、恩師でありすべり研究の第一人者である故・小野英哲東京工業大学名誉教授より研究指導を受けた。2004年、日本建築学会賞(論文)受賞。はきもの床材表面介在物3つの要素(床材、はきもの、表面介在物)の組み合わせによって、すべりの抵抗値が変わる。実際的な条件をふまえてすべりを研究することが、安全な床材の開発に大切。
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03する床用途などにより大きくは変化しないのですが、すべりに対する評価は、それらにより微妙に変化します。例えば、歩行とダッシュやストップでは、後者の方がすべりに対する要求がより厳しくなることが容易に想定できると思います。また、同じ歩行でも、住宅内では、通常何歩も歩けるスペースがないため自然と動作がゆっくりになるのに対し、事務所、学校などではより速い動作が行われるため、やはりすべりの評価は微妙に変化します。すべりを評価する場合は、これらのことを考慮し、それぞれの条件ごとに評価指標をきめ細かく整備する必要があります。なお、評価指標を整備するためには、すべりに対する人間の評価を抽出し定量化する必要がありますが、一人一人の評価の差、すなわち個人差は、動作の種類や想定する床用途などが同じであれば比較的小さいことが、統計的に確認されています。◉最適なすべりとは、どういうものですか?すべる床が危険であることは御承知のことと思いますが、歩行などの動作の場合、実はすべらなさすぎる床も安全性の観点からの評価は低下します。これは、人間は動作時に足裏や履物底を多少床にこすりながら着地するため、床がすべらなさすぎると、この時につっかかりが生じ、体が前のめりになってしまうことによります。すなわち、床のすべりには最適値が存在し、これよりすべりやすい床もすべりにくい床も、徐々に評価が低下してゆくことになります。すべらなさすぎる床における評価の低下は、すり足気味で動作することの多い高齢者の場合、より顕著になります。なお、階段昇降や、浴室において浴槽縁を跨いで入浴する動作など、水平方向の動きが少ない動作では、すべりにくい床でも評価は低下しません。◉測定時に気をつけることは?いくらしっかりとした試験機が開発されていても、すべりの測定は、あたかも定規で長さを測るかのように、誰がやっても簡単に同じ値が得られるというものではありません。これは、試験機の安定性に問題があるからではなく、すべりそのものが非常にデリケートなものであるためです。一例を挙げると、測定を開始する際、その日の最初のデータは、その後のデータと比較して、低い値が得られる場合が多いことが、経験的にわかっています。おそらく、すべり片の表面に付いた目に見えない程度のほこりなどの影響によるものと思われますが、詳しいことはわかっていません。このように、マニュアルなどではなかなか説明しきれないノウハウのようなものが多々あるため、信頼できる結果を得るためには、経験豊富な測定者による臨機応変な判断が必要となります。◉建物を設計(床材を選定)する時に気をつけるべきポイントは?すべりは、生き物です。同じ床でも、履物はもちろん、土砂、ほこりや雨水といった表面介在物の有無および介在量、あるいは使用中の摩耗による表面性状の変化など、様々な要因により時々刻々と変化します。このため、特定の条件で測定されるすべり抵抗係数のみを参照していると、仮に最適値近傍となる床材を選定したとしても、実際に使用に供した際に危険な状態となってしまうことが往々にしてあります。実務的には、実際の使用時に想定される様々な条件ですべり抵抗係数を測定し、これらがいずれもあらかじめ設定した許容範囲内に収まる床材を選定するのが、肝要といえます。◉最近の研究の成果についてお聞かせください。すべりに関する最新の研究成果を、いくつか御紹介します。まずは、携帯型すべり試験機の開発です。従来のすべり試験機O-Y・PSMは、現場測定も視野に入れ分解して持ち運びできるように設計されてはいましたが、総重量が300kgf程度あるので、事実上は困難でした(それでも現場までなんとか運搬し測定したことが何回かありますが)。しかし、上述の通りすべりは生き物であり、その実態を把握するうえで現場測定は非常に有効です。そこで、小野先生が開発したのが、総重量約30kgfの携帯型すべり試験機ONO・PPSM(Ono

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